最近、海底ケーブルに関する記事を目にしました。 海底ケーブルの名前自体は知っていたものの、 どのような仕組みで動いているのかはあまり理解していなかったため、この機会に調べてみることにしました。
今回、主に以下のような点について調査しました。
- 海底ケーブルは、どういう仕組みで動いているのか
- 衛星通信が海底ケーブルの代替となる可能性はあるのか
- 自分の日常のどの部分が海底ケーブルに支えられているのか
- AWSのようなクラウドサービスとの関係はどうなっているのか
国内サービスを利用する場合、多くの通信は国内の光ファイバー網だけで完結します。 一方で、海外のサービスや海外リージョン上のデータへアクセスする場合は、海底ケーブルを経由した国際通信が発生します。 海底ケーブルが関わるのは、海外のWebサイト、海外SaaS、海外リージョンに配置されたシステムやデータなど、国境をまたぐ通信です。
国際通信の大半は海底ケーブルによって支えられていて、衛星通信が占める割合はごくわずかです。 私たちが普段利用しているサービスの多くは、海底ケーブルの恩恵を受けています。
AWSのリージョン間通信の裏側には複数の海底ケーブルが存在し、その建設や保守を担う専門企業、そして故障時に修理を行う特殊船によって支えられていることが分かりました。 普段は意識することのないインフラですが、インターネットを支える重要な仕組みの一つです。
今回は、海底ケーブルの仕組みや役割、AWSなどのクラウドサービスとの関係について整理してみたいと思います。
海底ケーブルとは何か
海底ケーブルは新しい技術ではなく、最初の大西洋横断ケーブルは1858年に敷設されました。日本は明治維新の10年前でまだ電話すら発明されていない時代に、銅線でモールス信号を送るところから始まっています(このときは数週間で故障したそうです)。
1956年に最初の電話用ケーブル、1988年に最初の光ファイバーケーブルが登場し、そこから容量・距離ともに拡張されて今に至ります。 海底ケーブルは150年以上にわたって改良が続けられてきた、非常に歴史の長いインフラになります。
海底ケーブルの歴史と仕組み 総延長は地球35周分の140万km|BUSINESS NETWORK
世界中の海底には、現在およそ600本の海底ケーブルが敷設されており、距離にして100万kmを超える規模になります。地球を数十周分に相当する長さです。
※世界の海底ケーブル網は以下のサイトで確認できます。 実際に見ると、想像以上に多くのケーブルが世界中を結んでいることが分かります。
1本のケーブルの太さは、深海部分で直径数cm程度(家庭用ホースくらい)、浅瀬では鋼鉄装甲が巻かれてさらに太くなります。中心に光ファイバーが数ペア〜数十ペア通っていて、それを銅やアルミの導体(中継器に電力供給するため)、絶縁体、装甲層で保護した同心円構造をしています。
各ケーブルの両端は「陸揚げ局」と呼ばれる施設に接続され、そこから陸上の通信網に繋がります。日本にも複数の主要陸揚げ拠点があり、太平洋を渡るケーブルの多くがそこに辿り着きます。
容量は近年大きく伸びていて、最新のケーブルは1本数百Tbpsを扱えるレベルに達しています。データセンター需要、生成AI関連トラフィックの増加、クラウド事業者の自社投資ラッシュなどが背景にあるようです。
海底ケーブルは何を運んでいるのか
では、普段私たちが利用しているサービスのうち、どのようなものが海底ケーブルに支えられているのか。 次のようなものが該当します。
- 海外のサイト、SNS、ECサイトなどの閲覧
- 海外のデータセンターを主軸に運用している生成AIサービス
- 海外のSaaS / クラウドサービス(海外リージョンを使っている場合)
海底ケーブルが関わるのは国境をまたぐ通信です。 海外サービスや海外リージョンを利用している場合は、日常的に海底ケーブルの恩恵を受けていることになります。
海底ケーブルはどのくらい壊れるのか
実際、海底ケーブルはどのくらいの頻度で故障するのでしょうか。
国際海底ケーブル保護委員会(ICPC)などによると、世界では年間100〜200件規模の海底ケーブル障害が発生しているようです。 ただ、ケーブル総延長は毎年増加していて障害件数は概ね横ばいのため、距離あたりの障害率は低下傾向にあるようです。
障害の主な原因は、漁業活動と船舶の錨(イカリ)になります。トロール網や錨ドラッグによってケーブルが損傷するケースが多く、サメなどの魚類が噛んで切るという話もありますが、実際のところはほとんど確認されていないようです
近年は人為的な要因が疑われる切断事案も報告されており、海底ケーブルは通信インフラであると同時に、安全保障上の重要設備としても注目されています。
また、海底ケーブルの敷設や修理を行う専用船は世界でも数十隻規模しかありません。 障害が発生すると現場へ向かい、海底からケーブルを引き上げて修理しますが、復旧まで10〜20日程度かかることもあります。 地球規模で見ると、海底ケーブルは毎週どこかで障害が発生しています。それでも私たちが普段インターネットの不安定さを意識することが少ないのは、 複数経路による冗長化や保守体制が機能しているためです。
修理はどう行われるのか
では実際に海底ケーブルが切断された場合、どのように修理されるのか。
まず行われるのが障害箇所の特定です。陸上の設備からOTDR(光時間領域反射計)という手法を用いて光パルスを送り込み、反射が戻ってくる時間から障害地点までの距離を推定します。数千kmに及ぶ海底ケーブルでも、かなりの精度で障害位置を絞り込めるようです。
障害箇所が判明すると、担当海域の修理船が現場へ向かいます。日本にも海底ケーブルの修理事業者があり、太平洋や東アジア地域のケーブル保守を担っています。世界の修理船はそれぞれ担当海域を持ち、常時待機・巡回する体制になっています。
現場に到着すると、次は海底からケーブルを引き上げます。浅い海域ではフック状の探線アンカーを海底に下ろしてケーブルを引っかける方法が使われます。一方、深海ではROV(遠隔操作型無人探査機)を使って海底まで降下し、ケーブルを直接つかんで回収します。
引き上げたケーブルは船上で修理されます。修理船には光ファイバーを融着接続する専用の作業室があり、切断された両端の間に予備ケーブルを挿入して接続します。接続後は通信試験を行い、問題がなければ再び海底へ戻します。
海底ケーブルの場合は揺れる船上で実施しなければなりません。さらに、作業中は波や潮流の中で船を一定位置に保つ必要があります。精密な接続作業を行う技術者と、高度な操船技術を持つ船員の両方が欠かせない工程です。
修理期間は近海ケーブルで数日程度、太平洋横断ケーブルのような大規模なものでは10〜20日程度が一般的とされています。ただし、領海やEEZ(排他的経済水域)内での作業には関係国の許可が必要で、場合によっては数週間から数か月待ちになることもあるようです。
世界をつなぎ直したもうひとつの復旧「海底ケーブル」─東日本大震災から15年vol.4 | Spark Journal by KDDI
衛星通信は代替になるのか
海底ケーブルは故障することもあり、修理には時間もかかります。そこで気になったのが、「衛星通信は海底ケーブルの代替になり得るのか」という点でした。
結論から言うと、現状は部分的にはYesで本質的にはNoという状況のようです。
まず通信容量で見ると、両者には大きな差があります。LEO(低軌道)衛星コンステレーション全体の通信容量は数百Tbps規模とされていますが、これは最新の海底ケーブル1本と同程度です。世界には約600本の海底ケーブルが存在するため、現在の衛星通信だけで全てを置き換えるのは容量面で現実的ではありません。
一方で、レイテンシ(遅延)についてはLEO衛星が意外に優秀です。東京〜米国間の海底ケーブル通信が100〜150ms程度なのに対し、LEO衛星では数十ms程度になるケースもあります。これは従来の静止衛星と比べて軌道高度が大幅に低いためです。
ただし、グローバルなトラフィック全体を衛星間レーザー通信だけで処理するには、まだ実証段階の技術も多く、大規模な代替手段としては発展途上と言えます。
また、信頼性やコストの面では依然として海底ケーブルが有利です。衛星は宇宙環境や天候の影響を受けやすく、通信容量あたりのコストも海底ケーブルの方が大幅に低いとされています。バックボーン通信が衛星へ置き換わらない最大の理由になります。
そのため、現在は両者を競合技術としてではなく、補完関係として捉える考え方になっています。海底ケーブルは大容量・低コストのグローバルバックボーンを担い、衛星通信は離島や山岳地帯、船舶向け通信、災害時のバックアップ回線、ケーブル切断時の緊急迂回路として活用されます。
誰が作っているのか
世界中の通信を支える海底ケーブルですが、実は設計・製造・敷設を行える企業はごく少数しか存在しません。主要なプレイヤーを挙げると、以下のようになります。
- SubCom(アメリカ):米国の主要な海底ケーブル企業
- ASN(Alcatel Submarine Networks)(フランス):2024年にフランス政府が国有化
- NEC(日本):長年にわたり海底ケーブルの設計・製造を担う主要企業
- HMN Tech(中国):旧Huawei Marine Networks。アジア圏を中心に事業を展開
もう一つの特徴が、ケーブル敷設・修理船の少なさです。海底ケーブルを敷設・修理できる専用船は世界でも数十隻規模しかなく、新規敷設や障害対応のボトルネックになることもあります。
そのため、新規プロジェクトでは数年単位で船の手配が必要になるケースもあり、巨大な通信事業者やクラウド事業者であっても、船を確保できなければ計画を進めることはできません。
つまり海底ケーブルとは、ごく少数の企業にしか作れず、限られた数の特殊船でしか敷設・修理できない、極めて寡占的なインフラなのです。
https://www.soumu.go.jp/main_content/001040293.pdf
AWSと海底ケーブルの関係性
東京リージョンと米国リージョンの間でデータをやり取りする場合、その通信は海底ケーブルを経由します。RTT(往復時間)はおおむね100〜150ms程度ですが、これは光の速度と地球の大きさによる物理的な制約です。
AWSは通信事業者の回線を利用するだけでなく、自社専用のグローバルネットワークの構築にも投資しています。AWS公式によると、リージョン間トラフィックはAWSが管理するグローバルネットワーク上を流れます。
そのため、東京リージョンから米国リージョンへのレプリケーションやバックアップ、マルチリージョン構成による冗長化も、最終的には海底ケーブルによって支えられています。
AWSが海底ケーブルへ直接投資している事例の一つが、海底ケーブルプロジェクトFastnetです。設計容量は320Tbpsに達し、沿岸部では追加の鋼鉄装甲による保護も施されています。
クラウドは抽象化されたサービスに見えますが、その裏側には海底ケーブルをはじめとする物理インフラが存在しています。
まとめ
クラウドの時代になると、インフラはどんどん抽象化されていきます。
しかし実際には、その下で光ファイバーが海底を何千kmも走り、
故障すれば修理船が出動し、
世界中の技術者が物理的にメンテナンスを行っています。
海底ケーブルを調べてみて、 普段意識することのないインターネットの裏側には、 多くの企業や技術者によって支えられる巨大な物理インフラが存在していることを改めて実感しました。
参考サイト
海底ケーブルの歴史と仕組み 総延長は地球35周分の140万km|BUSINESS NETWORK
世界をつなぎ直したもうひとつの復旧「海底ケーブル」─東日本大震災から15年vol.4 | Spark Journal by KDDI